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建築と都市、そこでの生活にまつわるあれこれ

日本の建築空間を売り出そう!(2)

日本の建築空間を売り出したいのに海外でこれを作ろうとすると施工技術の違いから、この独特の空間がつくれない問題について考えます。

 

この問題って、解決策がいくつかありますよね。

 

例えば、そもそもこんな問題に直面しないように日本の建築空間を売り出す、という方法があります。

安藤忠雄さんがやっているデザイン手法もそのひとつでしょう。

 安藤さんはコンクリート打ち放しの建物が有名です。安藤さんのコンクリートは実物を見ると、そんじょそこらのコンクリート打ち放しとは質感が違いますよね。とてもきれいです。なんでも独自の配合方法があるとか。(噂でしか知りませんが。)

安藤さんはプリツカー賞も受賞した世界的建築家です。チリやアメリカ、ヨーロッパでもこのコンクリート打ち放しの建物を作っていますね。私は写真でしか見たことないですけど、日本で見る安藤さんの建築と変わりなく見えます。

 

 安藤さんの建築が海外でその施工成功しているポイントは以下です。

(1)、コンクリート打ち放しというシンプルな素材でつくる空間を売りにしていること。

(2)、コンクリート打ち放しでつくられた空間が日本のわびさび文化として海外で受け入れられていること。

 

(1)について、

コンクリートというユニバーサルで扱いやすい素材を使っているので、クオリティコントロールが比較的簡単。

どこの国でも一般的に使われている素材だし、骨材となる石の種類やサイズは地域によって違いがあるものの、気候については日本列島は亜熱帯から亜寒帯まである土地なので、どこの国で使うにしても配合計画には日本で培った経験を容易に生かすことができそうです。

また、コンクリートは扱いも簡単です。型枠に流し込んでたたいて固まるのを待つだけですから。それほど熟練した技術はいりません。

 

(2)については、

安藤さんのデザインするコンクリート打ち放しの空間は独特の雰囲気がありますよね。シンプルで、なんというか、厳しい感じ。この妙に厳しい感じが日本のわびさび文化と結びついて海外で受けてるんだと思います。日本2000年で培われた文化を現代的な素材、工法を使って表現しているわけですね。

 

これら2つの戦略で安藤さんは世界的建築家になっているんですね。

うまいですねえ。

 

SANAAもこれと似たような戦略をとっていますよね。

彼らは日本の建築が持つ、シンプルさ、フレキシビリティ、構造体の軽やかさを現代的に解釈して世界に売り込んでいるように思います。もしくは彼らの予想に反してそのように海外で受けています。建物に使われている素材はシンプルで工場に使われるような素材ですから、現地の職人さんとのやりとりもうまくいきそうです。

 

日本の建築空間を(物質/使用両面で)ユニバーサルな素材で表現して売ってみる、というのがひとつの解法でした。

 

他にも解法がありますよね。次回はその別の解法について考えます。

 

 

 

 

 

 

 

 

日本の建築空間を売り出そう!(1)

よく言われることですが、日本の建築物の施工精度はすばらしい。

日本では、建築設計事務所が書いた設計図にメーカーの設計士さん、現場の職人さん達の知恵が加わって、細部まで気が配られた質の高い建築物ができあがります。

 

そんな私たち日本の設計事務所が日本以外の国で建築物を作るときに、日頃苦労しているのが、現地の施工技術と日本の施工技術の間にあるギャップです。

 

例えば、中国の上海に”和食レストラン”を作ってほしいと中国人のクライアントから私たちに依頼があったとします。

この時クライアントが求めているのは、日本に建つ建築物が当たり前のように持っている、繊細さ/緻密さと、それが醸し出す雰囲気です。彼らは日本で日本の職人さん達が作り上げた建築物を見て、「こんな建築が上海にあったら他の店と差別化できて、目立つし、お客さんもたくさん来るはずだ!」と思って日本人の私たちに建築物を依頼をしてきます。

依頼されると、私たち建築設計者は図面を書きます。render imageなんかもつくったりしてクライアントと建物イメージを共有し、ゴーサインが出ると、cadデータとしての図面はメール等で瞬時に上海にいる施工者に渡ります。なんだったら日本で一度作ったことのある建物の施工図データをそのまま渡してもいいわけです。それは正真正銘、その建物情報がもれなく記載された図面です。その図面を受け取った上海の職人さんがその図面どおりに建物をつくればいいですよね。

 

でも、それだけじゃ作れないんですよね。

 

だから、まずは図面をローカライズする人たちがいます。上海で作ることができるように図面をどんどん変えていきます。そのローカライズされた図面をみた設計者は思います。「だめだ!こんなんじゃ日本建築が持つ空気感は表現できない!これではクライアントに嫌われちゃう!」。

そこで設計者は、ここだけは死守しないといけない、という部分のディティールだけはなんとしても実現しようよ、と上海の施工者や職人さんに掛け合います。「ちょっとモックアップ(原寸模型)つくって、できるかできないか試してみようよ。」って。モックアップの製作でもあーだこーだいいながら、なんとかそれっぽいディティールが一部では再現できそうです。

かくして、「まあ、なんとなく日本の建築っぽいね。」っていう建築ができあがります。

 

 

ほら、これって、近頃の建築グローバリゼーションの中でよく見られる光景ですよね。

 

 

これってなんとかならないのかな、ってよく思います。これだと設計者もストレスがたまるし、クライアントも残念。現地の職人さんもスキルもあがらないから、また新しい仕事をするときにも同じことの繰り返しです。 

 どうしたらいいんでしょう。

 

日本建築が持つ独特の雰囲気を売りたいのに、日本以外では作れないというじれんま。

 

次回この問題の解決策を考えてみたいと思います。