CITIPEDIA シティぺディア

建築と都市、そこでの生活にまつわるあれこれ

新興国での建築デザイン、3つのアプローチ

今回は中国、ドバイ、インドネシアなどの経済成長が著しい新興国で、外国人が建築デザインの仕事をすることについて考えてみたいと思います。

われわれ日本人もこうした新興国での仕事のオファーをたびたび受ける訳ですが、1回プレゼンしただけで音沙汰なかったり、何度もプレゼンするにもかかわらず、なかなかPreliminary Designが終わらなかったりする。そこには絶対なにかミスマッチがあるはずなのになかなかそれが見えてこない。そこをきちんと考えてみましょう、というのが今回のテーマです。

 

新興国でわれわれが遭遇する建築プロジェクトの目的には大きく分けて、

(A)先進国資本が新興国の国民の消費を期待するもの

(B)先進国/新興国資本が、その国の資源を使い、世界中の人々の消費を期待するもの

(C)新興国の成長企業が 自分たちの会社を世界でエスタブリッシュすることを期待するもの

の3つがあるように思います。

 

順に考えていくと、

 

(A)は消費者となりえる中産階級が、ものすごい人数でてきた新興国に対して、先進国資本が自国の資源を使った商品/サービスを売るためのプロジェクト。

このプロジェクトでは、いかに商品のアイデンティティを伝える建物を作れるかが重要な落としどころになります。

この場合建築デザインはそのメーカーが世界中で用いている、

規格化されたデザイン

が採用されることが多いように思います。アップルストアLOUIS VUITTON等のラグジュアリーブランドのインテリアなんていい例ではないでしょうか。

 

(B)は消費者となりえる中産階級が、ものすごい人数でてきた新興国に対して、先進国資本が現地の資源を使った商品/サービスを売るためのプロジェクト。例えば、大自然を生かしたホテルプロジェクトやおいしい地元料理を提供するレストランのプロジェクトなどのことです。

こういうプロジェクトを進めるとき、事業者は現地の資源をそのままでは使いません。大自然や食べ物を加工し、世界の人々に受け入れやすいものにしようとします。現地でおこなわれているそのままの方法では現地の生っぽさがありすぎるからです。

例えば、海外資本のホテルは典型的です。一般的にホテルは

・外国から訪れる人

・国内から訪れる人

の2つの層をターゲットにします。

新興国に訪れる外国人の中にはビジネスが目的の人も観光が目的の人もいるわけですが、両者ともせっかく他国にきたのだからその国の文化を味わいたい。一方で、多少お金を払ってでも自国のホテルと同じようなグレードのサービスで、ストレスのないホテルライフを過ごしたいという欲求があります。(現地のサービスも含めて味わいたいという人ももちろんいて、そういう人々はこのホテルのターゲットからはずれます。)

一方で、国内から訪れる人は観光を目的にしていることが多いかもしれません。そのとき彼らは旅そのものに非日常的な体験を求めます。

この2つの層に対して、ホテルが出す回答は、「世界最高のサービスを提供する、その新興国の文化を踏襲したホテル」です。

例えば、FOUR SEASONSは各地にその国の建築文化を踏襲したホテルをつくっていますよね。で、そこで自社のマニュアルに基づいたサービスを提供しています。

この場合求められるのは、

地元文化に根ざしていて、かつ世界基準で質の高い建築デザイン

です。この建築デザインは先進国の建築家にゆだねられることが多いです。なぜかというと、現地ではまだ世界的に見ても質の高い建築デザイン、つまり、世界の人々に「うける」デザインを理解し、描ける建築家が新興国にはまだいなかったり、とても少数だったりするからです。だから私たち日本人に中国のホテルの案件が舞い込んできたりするわけですね。

けど、こうした状況もあと10年くらいで終わるでしょう。なぜなら、いままさに、これら新興国の若者が自国の経済成長によって手にしたお金でアメリカやイギリスに留学し、ワールドスタンダードな建築デザインを学びつつあるからです。

 

(C)は新興国で成長した地元企業が世界進出しようとする場合、もしくは、進行国内で展開する外資企業と張り合うために企画されるプロジェクトです。あ、あとは政府系のプロジェクトでも文化施設などはこれに分類されるものもありますね。この場合、自国の文化を他国の文化と張り合わせる感じでしょうか。

で、このとき採用されるのは、

とにかく目立ってみんなの視線を集められ、かつ、世界基準で質の高い建築デザイン

です。

例えばザハ・ハディドフランク・O・ゲーリーの建築は、コンピュータを駆使した三次元的なデザインで有名ですよね。こうした建築は世界にアピールできるアイコニックなものであるというだけではありません。その三次元的なデザインを現実に作れるということが、その国の高い建築技術を証明することにもなりますよね。

例えば、ザハのGALAXY SOHOや広州オペラハウス、H&deの鳥の巣がここに分類されますね。それから、建築技術の証明といえば、超高層建築もそうですよね。ドバイに建てられた超高層のブルジュ・ハリーファもここに分類されますね。

 

というわけで、新興国での建築デザインの3つのアプローチについて考えてみました。

(A)も(B)も(C)も新興国と先進国での建築技術の違いをどのようにクリアするかっていうのが大きな問題になるけど、(A)と(C)がこの生産技術の問題さえクリアすればどうにかなるかなって思えるのに対して、(B)はそれに加えて他国の文化の本質をデザイナーがつかまなければクライアントが求めるデザインができない、という大きな問題がありますね。